特派員エッセー
ニッケイ新聞 2008年
第五回【百周年に冷淡なメディア】
市川亮太 時事通信社前サンパウロ支局長(35、北海道出身、04年3月着任、07年3月帰国)
「この扱いはないよね」―。四月二十四日、東京港区のホテルで開かれた「ブラジル移住百周年記念式典」。会場で久しぶりに再会した前サンパウロ領事で農林水産官僚の山口克己氏と後日、ブラジル関連のイベントで顔を合わせた際、互いに思わず交わしたぼやきだ。
式典には天皇、皇后両陛下や、福田康夫首相をはじめとする日本の三権の長、ロウセフ官房長官ら日伯の要人約四百人が参加。日本側の百周年記念行事の「目玉」と位置付けられるものだった。報道陣の数もざっと百人ほどで、ようやく日本でも百周年の機運が盛り上がるかと期待した。
しかし、弊社を含む翌日の主要各紙の扱いは、式典の規模に比べてひどく淡白なものだった。弊社は四十行程度のベタ扱い、読売は社会面ベタ、日経と東京は第二社会面ベタ、毎日にいたっては記事がなく、首相動静欄で登場する程度。朝日と産経は二段だったが、それでも朝日は政治面の囲み、産経は第三社会面肩にすぎない。しかも、各紙とも共通して天皇陛下の「お言葉」にスポットが当てられ、百周年の意義や日系人側の思いにまで触れた記事はほとんど見当たらなかった。
当然、記事の取り上げ方は各紙の編集方針やデスクの価値判断、当日の他のニュースとの兼ね合いで大きく変わる。ただ、サンパウロ特派員だったという「贔屓目」を割り引いても、当日はそれほど大きなニュースも見当たらなかったことから、やはり百周年そのものが日本のメディアではひどく軽んじられているとの印象を強く受けた。
世界のニュースを扱う外信部に戻って間もなく二カ月。この間、改めて気付かされたのは、海外ニュースの八割が米国、中国、韓国、北朝鮮に偏っているということだ。無論、日本の国益に直接影響を与える地域なので、関心が高いのは当たり前だ。それでも、洪水のように一部地域のニュースが微細にわたり流れるという状況は、バランスを著しく欠いているように映る。
ニッケイ新聞も折りに触れて警告しているが、先人、そして現在の日系諸先輩のたゆまぬ努力により、これほど親日本感情が強いブラジルをはじめ、押し並べて日本に好意的な中南米地域を軽んじる態度を我々メディア、ひいては日本国民が取り続ければ、いつしかこうした国々に見放される時が来るのではないかと危惧している。
盟友である朝日、日経、NHK、共同、読売、そして毎日の特派員仲間は日ごろ工夫して記事を載せる努力を続けているわけだが、どうも東京のデスク連中は中南米に興味はないようで、小生が帰国してからの報道を見る限りでは、百周年も盛り上がっていない。 メディアの反応を気にしすぎる必要はないが、多くの情報がメディアを通じて国民に届いていることを考えれば、祝賀ムードを本気で盛り上げたいならば、関係者は今からでも遅くないから日本での対メディア戦略を練り直した方が良いのではなかろうか。難しいのは承知だが、もう少しやりようがある気がする。
記念式典に話を戻す。天皇陛下や福田首相ら要人が祝いの言葉を述べる中、小生が最も心を動かされたのは、全校児童の三割がブラジル系という愛知県東浦町立石浜西小学校の児童十人によるプレゼンテーションだった。日ポ両語で共生の楽しさをつづった言葉と、「アクアレラ・ド・ブラジル」の合唱は、偉い人々の紋切り型の祝辞よりも、はるかに日本人とブラジル人の絆の歴史と未来を感じさせてくれた。
日系三世の箱丸ベアトリス亜由美さん(11)は「もう百年たってもブラジルと日本が仲良くいられるよう、力になりたい」と語ってくれたが、弊社も含め、こうした視点から式典を伝える記事が見当たらなかったのは、少し物足りなく感じた。