■帰国子弟−デカセギ時代の新人類=|終−統合的人格の可能性−親や回りのサポートが重要
7月26日(金)
ブラジルにも来たことのある社会言語学の専門家・東照二さんの著書『バイリンガリズム』(講談社新書/二〇〇〇年)によれば、「一つの言語しかない社会というのは便利でいいかもしれないが、私たちの生活に豊かさや感動を与えてくれるものではない」という。
「一つの言語ではなく複数の言語をもつ社会というのは、ちょうど色とりどりの豊富な花をもつ庭のようなものだと考えられる。つまり、社会とバイリンガリズムは相容れないものではなく、むしろバイリンガリズムは社会に貢献するものだといえる」(二〇五P)。ブラジル社会における日本語の意義ともいえる説明ではないだろうか。
帰国子弟がバイリンガルに育つかどうかの鍵の一つは、親を含めたまわりの大人の態度だ、と東さんは主張する。帰国子弟本人がブラジル文化やポルトガル語に対して、肯定的な評価を持つことが、言語習得の早道だという。そのような評価をもつ大人がまわりにいれば、自然と子供に影響を与えるという意味で、親の役割は重要だ。
「逆に、日本の文化が世界で一番だ(少なくとも対象の文化よりはかなり優れている)と考えてばかりいる人は、言語習得があまりうまくいかない人だということになる」(一三〇P)ということになり、その子どもは親の態度に反発したり、逆に同調してポ語習得の妨げになったりするようだ。
つまり、親やまわりの大人が、日本文化同様に、ブラジル文化も柔軟に受け入れようとするほど、帰国子弟のポ語習得もうまくいく。
加えて、「強い動機のある人ほどバイリンガルになる確立は高くなる」(一一三P)ともいう。強いポ語学習動機を持つには、ブラジル社会に良い評価を持つことは欠かせないだろう。
現実的には、日本に対しても、ブラジルに対しても肯定的な評価を下せない、行ったり来たりを繰り返すデカセギ者を親に持つ場合も考えられ、帰国子弟も、どっちつかずの状態にあることも多いかもしれない。その分、周囲のサポートは重要になる。
また、中川キョウコさんが指摘しているように、それが日本語であれ、ポ語であれ、まずは第一言語(母国語)をしっかりすることは最優先課題のようだ。
単純な話、難しい概念を説明する場合、どちらの言語能力も中途半端な場合、どちらの言語で説明しても学習には時間がかかる。でも、母国語ですぐに理解できるのであれば、それは第二言語に応用される。つまり、母国語ができればできるほど、第二外国語の学習が早く進む。
一般論としていえば、訪日以前にポ語が母語として確立していた子ども(十歳以降の訪日など)は、帰国してからブラジル学校に通う中で、時間をかければ、あるていど自然に学習と適応は進む。
ただし、その過程で日本語を忘れることも起きるので、バイリンガルを維持・更新するには、日本語学校などに通う努力が必要になる。
逆に、四、五歳以前に訪日、もしくは日本で生まれ、日本の学校に通っていた子どもは、すでに日本語が母語になってしまっている可能性が高い。そのような帰国子弟には、本来は、日本語を中心に教科を教え、合わせてポ語能力を伸ばすバイリンガル教育施設があったほうが、学習は早いようだ。
でも、現実にはそのような施設はなく、ブラジル学校・社会への適応に時間がかかり、今までに見てきたような中川キョウコさんが指摘する問題が起こりやすい。
しかし、その分、深く日本文化に親しんでいるので、ブラジル社会に適応後、より両文化を統合した活動をできる可能性も含んでいる。ブラジル社会をより豊かにするための新人類≠ニしての素質を、より備えているのかもしれない。
デカセギ現象が今後も続くことは十分想像できる。
ならば、その統合を円滑にするために、「適応センター」を作ったり、もしくは、そのような機能を既存の日系ブラジル校や日本語学校が備えたりすることは、彼らが社会で要職に着く十年、二十年後を考えた時、意味のあることではないだろうか。
将来、一万人を超えるかもしれない新人類$「代の帰還は、着実に進んでいる。 (深沢正雪記者)
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