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■ブラジル・アリランの世界−韓国系コロニアは今−13−世代間に意識の差−「礼節を知る」が一世の願い

6月15日(土)

 父「何や、こんな時間に」。居間の扉を開く。娘二人が焼酎を飲んでいる。
 父「ほー、ええな。わしも交ぜてくれ」
 目をこすりながら母が起きてくる。 
 父「酒のつまみを」
 母「はいはい」
 韓国の某連続ドラマの一場面。アリラン衛星放送で何げなく見ていた、ユンジュさん(仮名、七〇)はゆくりなく絶句した。
 「女性が両親の前で堂々とお酒を飲むなんて」
 この〃非常識〃に頭が混乱し、後の話の展開についていけなかった。
 母国以上に保守的な部分を残す移民社会。八〇年代半ば以降、性の開放とモラルの低下が急速に進む韓国の若者が、移民の目には〃宇宙人〃と映る。
 「六、七〇年代の移住者と八、九〇年代組の意識に大きく差がある」
キム・イペ・リカルドさん(五〇)は認識する。もともと上下関係に厳しいはずの韓国だが、「新世代は先輩への尊敬の念が薄い。今の繁栄が先人の犠牲の上にあることを伝えたい」と、ゴルフと乗馬で焼けた顔を引き締める。平和統一諮問評議会(会長=金大中大統領)の南米代表、サッカークラブ協会長を務める、指導者的立場。誇るべき韓国人気質を率先してバトンタッチしていく役割を自覚している。
 「一斗は持てないけれど、一斗は飲める」
 その酒豪振りの伝承は禁欲を善しとするプロテスタントが支配的なだけに難しそうだが、「団結力と人情だけはいつまでも残って欲しい」と漏らす。
 子供に家業を継がせたがる親が多いことには疑問を持つ。「いくらお金が入ってくるからといっても、子供の夢が一番大切」。六四年に十三歳で移住した。「自分のしたいことを探すゆとりなどなかった」からこそ、そう思う。
 リカルドさんが入植したアリラン農場はサンパウロ市から約五十キロのグァラレマにあった。韓国移民が初めてブラジルの大地に桑を入れた場所だ。十家族が入植。各自の蓄えを出し合い、農場を建設した。「農業経験のあるものは一人もいなかった」。第一回移民のオクビン・ベク・モニカさん(七八)は振り返る。 幸い、日系のさくら植民地に隣接していた。農業を習いに行った。が、「だれもが資金、労働力不足でいつの間にかやめていた」。第一回移民でその後、農業を続けた人はいない。
 移住したとき既に三十八歳、四人の子供がいた。「広い外国に住んで、子供に自由な教育を受けさせてあげたい」と母国を離れた。「戦争はもうたくさんだったしね」。
 亡夫は医者だった。日本語がよく出来たので日系人の多く住む、サンパウロ市ビラ・カロン区で開業した。六〇年代が終わりを告げるころの話だ。 
 三世の初孫が二歳になる。孫世代への注文は、と尋ねると「まず世間では謙虚さを忘れないこと」。理由はいたってシンプル。 
 「他国の移民に比べて、まだ歴史が浅いから」
 続けて、「あとは礼を知ることね」。豊かになった韓国系社会に警告する。衣食足りて礼節を知る、と。
 教会中心の生活を送る。「以前はブラジル日本文化協会で生け花を習っていたけれど」、今は奉仕活動と合唱に忙しい。生来、本の虫。「でもブラジルの本が読めなくて悔しい」。隣人とのコミュニケーションにも言葉の壁から不満が残る、と嘆く。
 「元気だし」と一人で暮らす。寂しいときにはカーテンを締めて、大声で歌う。「雨の日ね、特に」。
 アリラン、アリラン、アリアラリヨ・・・。韓国の魂と、涙が織り込まれた調べがブラジルの驟雨(しゅうう)には溶けている。


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